この照らす日月の下は……
53
このままではまずい。
キラをそっと地面に降ろしながらカナードは打開策を探る。自分たちだけならばともかく、キラの友人達がいる以上、逃亡は不可能だ。かといって、この状況で相手がこちらの言い分を聞いてくれるとも思えない。
ではどうするか。
「あれを使うか?」
そうつぶやく彼の視線の先には地球軍のトレーラーがある。
「出来るのか?」
即座にカガリが問いかけてきた。
「モルゲンレーテにもザフトから鹵獲したMSがあるからな。それならばそれなりに動かせる」
ジャンク屋ギルドから入手できたからな、とカナードは付け加える。それに、自分はコーディネイターだから、とも。
「だから、どこかのバカが暴走したんだろうが」
オーブを守るためにと行動した結果がこうなったのであれば、うかつにあれこれ情報をもらせないと言うことだろう。
安全が確保されれば、サハクの双子にそう連絡しなければいけないか、とカナードは心の中だけで付け加える。
「とは言っても、この方法は諸刃の剣だがな」
自分たちもこの戦争から逃げられなくなるだろう。自分はそれでもかまわないが、キラとその友人達は困る。出来れば少しでも遠ざけておきたいのだ。
「出来れば使いたくないと?」
「あいつがいるからな」
そう言いながらカナードは視線だけであの女性士官を指し示す。
「後々のことを考えれば、うかつな行動は避けるべきだろう」
かといって、このままでは最悪あの世に行きかねないし。カナードがそう考えたときである。
ゆっくりと近づいてきていたザフトのMSがいきなり向きを変えた。
「全員、物陰に隠れろ!」
反射的にカナードはこう叫ぶ。
「あれは、フラガ大尉?」
同時にあの女性士官が声を上げた。聞き覚えのある家名にカナードだけではなく腕の中で半ばもうろうとしているキラも反応を示す。
「……本人か」
それはそれで厄介な、と心の中だけでつぶやく。
「ともかく、あちらは心配いらないようだ。俺たちは避難するぞ」
今を逃せばあの女性士官と離れる機会はないのではないか。そう判断をしてカナードはカガリにささやく。
「わかった」
カガリはそう言うとキラの友人達の方へと静かに移動していく。
「……問題は、あちらが見逃してくれるかどうか、だが……」
いざというときにはキラのけがを言い訳にするしかないか。ため息とともにそうつぶやく。
ともかく、少しでも安全な場所に移動しなければ戦闘に巻き込まれる。それはまずい、とカナードも移動を開始する。
あと少しであの女性士官の視界から逃れられると思ったときだ。
「あなたたち、どこに行くの!」
「安全な場所に決まっているだろうが! このままここにこいつを置いておいたら死ぬぞ」
誰のせいだ、と言い返す。
「それともなんだ? オーブの人間は地球軍の保護する対象ではないと?」
そう付け加えた時だ。二人の間に砲弾が撃ち込まれる。
土埃が舞い上がり、彼女の目からカナード達を隠した。それをいいことに、カナードはその場を離れる。
「ともかく、どこでもいいからシェルターに逃げ込むぞ」
どこが近いかは検索するしかないのだが、と心の中でつぶやく。
「いざとなれば避難用ポッドでもかまわない。軍に拾ってもらえるからな」
そう言いながらキラを片腕で抱え直す。その瞬間、彼女が顔をしかめたのはわかっていたが、今は我慢してもらうしかない。
ポケットから端末を取り出すと、手早くシェルターの位置を確認しようとした。だが、それよりも先にメールの存在に気がつく。
「とりあえず、一度、モルゲンレーテ方面に戻るぞ」
ざっと目を通してからそう言う。うまくいけばギナと合流できるかもしれないし、と心の中だけで付け加えた。
問題は流れ弾に当たらないかどうかだ。
「こちらの存在に気付いてくれていればいいんだが……」
無理だろうな、と心の中だけでつぶやく。
しかも、だ。あの女性士官があきれたことに追いかけてきている。
「カナードさん……」
「放っておけ。それより、フレイって子を気にかけてやれ。体力的にも限界だな」
本当に八方ふさがりになりつつあるな。そう思いながらも愚痴だけは言うまいとカナードは気を引き締めた。